東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)91号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。
(審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決を取り消すべき事由があるかどうかは、かかつて、原告が本件審判請求のための法定期間を徒過したことが、その責に帰することのできない理由によるものかどうかにあることは、原告の主張自体に徴し明らかなところ、原告の挙示援用するすべての証拠によるも、原告の法定期間徒過が、そのような理由によるものであることを肯認することはできない。すなわち、成立に争いのない甲第一号証及び同第三号証並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、栃木県工業指導所の技師として、昭和三十年一月頃から塗料に関する仕事をしてきたが、昭和三十七年三月頃、目まい、吐気、頭痛等の症状を自覚するに至つたので、宇都宮保健所ほか二か所において診断を受けたところ、ベンゾール中毒による白血球減少症であることが判明し、同年五月十二日荒木病院に入院治療を受けたこと、入院しても安静にして栄養剤の注射をするだけなので同月末頃退院し、以後は専ら自宅で療養に努めてきたこと及びその頃の症状は、目まいが激しく、吐気を催し、頭痛のため考えをまとめたり、物を見たり書いたりすることが困難な状態であつたことを認めることができるが、それ以上に、たとえば、拒絶査定(謄本)の意義を理解し、出願人としてとるべき処置を講じえない程度の精神的肉体的状態にあつたことを認むべき何らの資料はなく、かえつて、原告本人の供述によれば、原告が昭和三十七年七月二十日頃に至つて本件拒絶査定謄本の送達の事実を知つたのは、同年四月二十日右謄本の送達を受けた原告の家人が、当時原告が病気であつたこともあり、無関心のままに、原告に、右謄本送達の事実を前記七月二十日頃まで知らせようとしなかつたことによるものであり、もし当時、そのことを知れば、原告において近所に住む旧知の弁理士に手続を依頼しえた状況にあつたことが窺われるのであるから、このような事情のもとに、原告が本件審判請求のための法定期間を徒過したことは、特許法第百二十一条第二項にいう「その責に帰することができない理由」によるものということはできない。
(むすび)
三 以上説示したとおりであるから、その主張の点に違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。